"それ、私が聞きたかったことです" — サッカー選手の好奇心が生んだ異色インタビュー「なぜ人の意識を変えるのが難しいんですか?」

本来インタビュアーだった坂田武士氏に、突然質問を投げかけたのはトップサッカー選手の鈴木大輔選手。予定していたインタビューがスタートする前、思いがけない「逆インタビュー」が始まった。

サムライフスター代表の坂田氏は、鈴木選手にインタビューするために準備していた。だが、鈴木選手の予想外の質問から、立場が逆転する形で対話が展開。オリンピック出場や日本代表の経験を持つ鈴木選手が、探究心と鋭い質問で予防医学の核心に迫る、希少な対話の場面に立ち会うことになった。

好奇心が生んだ「逆インタビュー」

「予防」の価値に気づいた鈴木選手の質問から始まった対話。彼の質問は次々と予防医学の本質に迫っていく。

鈴木: なるほど、どういうところが難しいんですか、その人の意識を変えるのは?

質問を受け、一瞬驚いた表情を見せた坂田氏だが、すぐに熱のこもった回答を始めた。

坂田: そもそも価値観として(予防という考え方が)ないんです。多くの人に新しい価値観を受け入れてもらうのは難しい。人は様子見をするもので、SNSでも大勢が参加してから動くような感じです。私たちのような予防医学はマイノリティで少数派。本当に市民運動のように、一人ひとりに地道に伝えていくしかないんです。

鈴木選手は真剣な表情で聞き入り、さらに質問を重ねる。

鈴木: これは海外の方が進んでいるんですか?

彼の問いには、スペインでのプレー経験から培われた国際的な視点が感じられる。

アスリートと予防医学の接点

坂田氏は日本の医療保険制度が予防意識を低下させている現状を説明。「子供の医療費が無料だから病院に連れていく習慣ができる」という指摘に、鈴木選手は自らの領域と重ね合わせる。

鈴木: 大人になってもそういう感じ...そうか、アスリートも同じだな。

この言葉に、坂田氏は共感したように頷いた。

坂田: そうなんです。気づいた人はすごく価値を感じるんですけど、気づかせるまでがすごく大変で。私もいろんなサプリメントを試してきましたが、圧倒的に違うんです。

鈴木選手は自身の体験を語り始める。彼の言葉からは、トップアスリートならではの細やかな体感覚が伝わってくる。

鈴木: 私はビタミンCから始めたんです。最初から「なんだこれは?」と思いました。全然体調を崩さなくなって。アスリートは免疫力が落ちやすいんです。試合後や子どもから風邪をもらって体調を崩すことが多かった。でもビタミンを飲み始めてからそれがピタッと止まって。

言語化される稀有な体験

鈴木選手が続けて語った体験は、アスリートの身体感覚を驚くほど明確に言語化したものだった。

鈴木: マルチビタミンを飲んだら目覚めがすごく良くなるし、練習の疲労感も全然違う。特に「動けば動くほど体が軽くなる」という感覚がわかりますか?調子が良くないときは動くとすぐに疲れるのに、体のコンディションが良いときは動けば動くほど体が軽くなって、動いているだけでレベルアップしていく感覚があるんです。

坂田氏の表情が変わった。「それこそが本質です」と言わんばかりの反応だ。

坂田: だから、肉体とその機能がうまく歯車があっているんですね。どんどんどんどん動けるようになるというか。

鈴木: でこれを何かトレーニングで体感したことがあって、自分の体の状態を内側から体感したのが結構初めてで「この感覚か」みたいな。もう起きた瞬間からの体の状態と練習してるときの疲労が全然たまってないし、練習した次の日ももう1回きつい練習して、きつい練習しながら自分がレベルアップしている感覚というか。

普段は相手の動きを予測するディフェンダーとしての観察眼が、自分自身の内側にも向けられている。まさにトップアスリートだからこそ可能な表現だ。

老人ホームから生まれた予防医学

坂田氏がインタビューの準備をしていた内容はすっかり忘れられ、鈴木選手の質問によって話は坂田氏の原点へと向かう。

鈴木: それは最初から自分を変えようと思って始められたんですか?

坂田: はい。私は医療と介護の現場で働いていたんです。会社を始める前は老人ホームにいました。老人ホームでは食事を出しても、全部食べられるお年寄りはほとんどいないんです。食べ残しが多くて、みんなカルシウムやタンパク質が足りない。床ずれの原因も、ずっと同じ体勢でいることによる栄養失調なんです。でももう手遅れなんですよ。

坂田氏の表情に懐かしさと痛みが混じる。

坂田: この人たちにもし10年前にタイムマシンで戻ってアドバイスできるとしたら、絶対に食事と栄養だろうなと思ったんです。これだけ要介護の人がいて、もっと施設を作ろうと思ったんですが、違うと気づきました。

坂田: 自分が医療と介護の仕事をしていて、「絶対に自分が受けたくないサービス」を提供していたんです。正直、自分の施設に家族や友人を入れたいとは思わない。大切な人ほど関わってほしくない。

坂田氏のこの告白に、鈴木選手の目が見開かれた。

不定愁訴という盲点

鈴木選手の質問はさらに本質に迫る。

鈴木: 今、老人ホームの利用者さんたちの幸せを考えたとき、すでに入所している人たちにこのサプリメントをどう活かせますか?

この問いから、予防医学における重要な発見が明かされる。

坂田: 実は老人ホーム時代もアプローチしたんですよ。機能訓練をしましょう、食事の質を上げましょうと提案しても、駄目だったんです。お年寄りは「もういいよ、好きなものを食べさせて」とか「こんな体で運動は疲れる」と言う。家族も「追加料金を払ってまで必要ない」となる。

坂田: 介護状態になってからでは全部もう手遅れだと思いました。だから若い世代にアプローチするしかない。でも若い人は病気ではないから医療の対象にならない。そこで私は「不定愁訴」に注目したんです。病気ではないけれど不調がある状態—これを「病気の手前の状態」として定義して、「これを解決できますよ」というアプローチを始めました。

サッカー選手としての鋭い洞察力が、予防医学の盲点を突く質問を生み出した形だ。

熱を帯びる対話

対談は予定の時間を超え、熱を帯びていく。鈴木選手の質問は、坂田氏の情熱に火をつけた。

鈴木: 一般の人たちに落とし込むステップはかなり大変でしょうね。どうアプローチしていますか?

坂田: 一般社団法人を作って予防医学の学校を運営しています。勉強好きな人、自分の不調(便秘や疲れ、肌荒れなど)に悩む人、サプリメント好きな人、だいたいこの三つのパターンでアプローチしています。学校は13年続けていて、約450人の生徒がいます。

鈴木選手は真剣な表情で聞き入り、時折メモを取る姿も見られた。

共鳴する二つの世界

「逆インタビュー」は、全く異なる分野にいる二人が、互いの「本質への探究心」で繋がった稀有な対話となった。

話が進むにつれ、サッカーと予防医学という一見無関係な二つの世界に、多くの共通点があることが浮かび上がってきた。「本質を理解する少数から始まる」という坂田氏の言葉に、鈴木選手は強く共感した。

鈴木: 僕広めたいっすね。何か発信して僕ができることであれば何でも。

彼の言葉に、坂田氏は静かに頷いた。

坂田: 本質を捉えたい人にむけて、何か少数でも最初いいかもしれないですね、あまり大きくやらなくても。

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本来のインタビューがようやく始まるころには、すでに多くの本質的な対話が交わされていた。インタビュアーとインタビュイーの境界が溶け、二人の「探究者」による真摯な対話が実現していた。

鈴木選手は、サッカーのピッチでの冷静な判断力と全体を俯瞰する視点を、この対談でも発揮した。そして坂田氏は、思いがけない「逆インタビュー」によって、自らの原点と哲学を語る機会を得た。

二人の対話は、予防医学の可能性を語る以上に、「異なる分野の専門家が、本質について語り合う価値」を教えてくれた。

鈴木 大輔

東京都国立市出身のプロサッカー選手。Jリーグ・ジェフユナイテッド千葉所属。ポジションはディフェンダー(センターバック)。元日本代表。

坂田 武士

一般社団法人日本予防医学マイスター協会代表理事。株式会社サムライフ代表取締役。薬剤師・予防医学マイスター®︎・予防医学士®︎・スポーツファーマシスト

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