世界チャンピオンを支えた「準備」の哲学~松山英樹トレーナー 飯田光輝氏 の真実~

2021年、松山英樹のマスターズ制覇を支えたトレーナー・飯田光輝氏。178cm、94kgの堂々たる体格で「怖い」と恐れられる存在の素顔とは。予防医学の専門家・坂田武士氏が、一流アスリートを支える「準備」の哲学に迫った。

マスターズ制覇の舞台裏

坂田: 今日はお忙しい中、ありがとうございます。まず率直にお聞きしたいのですが、2021年のマスターズで松山選手が優勝した時、トレーナーとしてどんな心境でしたか?

飯田: あの日は朝から異常でした。普段なら「16番ぐらいからドキドキすりゃいいや」って思うんですけど、朝の一番ホールからずっとドキドキしっぱなしで。

坂田: それは緊張ですか?

飯田: そうですね。コロナ禍で絶対マスクをつけなきゃいけなかったんですけど、マスクをつけれないぐらい自分の動悸と息切れが激しくなって。「俺がこんな緊張してんだから、松山はもっとやばいだろうな」と思いながら(笑)。

坂田: 7年間一緒にやってきた集大成ですもんね。

飯田: 18番で、グリーンの正面にあるリーダーズボードに松山の文字を見た瞬間、「夢が叶うんだ」と思って泣けてきました。でも、あれは偶然じゃない。7年間の「準備」があったからです。

挫折から始まったトレーナーの道

坂田: そもそも飯田さんがトレーナーになったきっかけから教えてください。もともとはプロゴルファーを目指していたんですよね?

飯田: 16歳でゴルフを始めて、高校のゴルフ部の顧問に「10年間でダメだったらプロはやめろ」って言われたんです。それで27歳まで、11年間プロを目指しました。

坂田: 結果的には夢は叶わなかった。

飯田: プロテストは落ち続けて、チャレンジトーナメントもセカンドラウンドまで。今の立場の自分が当時の自分を指導するんだったら、「本当に無理だからやめた方がいい」って率直に言ってると思います。

坂田: 何が足りなかったんでしょう?

飯田: プランがなかった。プロになる人は自己分析がすごくできていて、それに対して何が必要で、どういう練習をすればいいかがある。要は課題分析と課題解決ができている。僕にはそれがなかった。

坂田: それで師匠の中島常幸さんに?

飯田: 「プロになれなかったので、プロを見るプロになりたいです」って言いました。そこからですね。

坂田: 興味深いのは、飯田さんは「3年で人生を変える」という明確な期限を設けていることです。これは意図的な戦略ですか?

飯田: 僕はそうじゃないと頑張れない。「いつでもいいよ」って言われたら無理なんです。結局怠け者なので、自分の中でルールを決めていかないと、全部だらけちゃう。

坂田: 27歳から30歳までの3年間で、専門学校と治療院での修行を?

飯田: はい。30歳の誕生日に中島さんのもとを訪れて「一応修行は終わりました」って。その日から中島さん専属のトレーナーになりました。

師匠との研鑽の日々

坂田: 中島常幸さんといえば、当時バリバリの現役トップ選手ですよね。新米トレーナーが意見するなんて...

飯田: とんでもない(笑)。時には、中島さんが結果に満足できない時に、悔しさから感情を露わにされることもありました。

坂田: それでも意見は言っていた?

飯田: 1年目は言えなかったですけど、でも言ってました。お互いプロだって思ってたので。ただ、伝え方は工夫しました。

坂田: どんな工夫を?

飯田: 同じことを伝えるのに、AパターンからDパターンまで4種類用意するんです。Aがダメでも、Cなら受け入れてもらえることがある。毎日同じことを言うのに、言い方を変えて伝える。

坂田: それは高度なコミュニケーション術ですね。

飯田: この8年間が僕をトレーナーとして完成させてくれました。それがあったから、松山とも上手くいったんだと思います。

天才との運命的出会い

坂田: 松山選手との出会いについて聞かせてください。

飯田: 2012年、まだアマチュアだった松山が「ちょっと腰痛いから見てください」って来たんです。でも僕は4人の選手を抱えてたから、「3、4時間待ってくれたら見れるよ」って。

坂田: 今では考えられない話ですね(笑)。

飯田: そしたら、本当に3、4時間待ってたんですよ。そんなうまい選手だって知らなくて。翌年マスターズに出るのも決まってたらしいんですけど、僕は全然知らなかった。

坂田: そこで何か特別なことが?

飯田: 松山の中で「ジンクス」が生まれてたんです。「飯田さんが触った次の日って僕、絶対67なんですよ」って。それで僕のところに遊びに来るようになった。

坂田: 面白い話ですね。それで正式にトレーナーとして?

飯田: いえ、一年間は別のトレーナーとやられてました。

坂田: でも結果的には2014年からアメリカに?

飯田: 2013年夏に「来年アメリカ行くので、一緒に来てもらえませんか?」って。年末にもう一度同じことを言われて、「あ、これ本気なんだ」と。それで決断しました。

坂田: 目標は?

飯田: 「2年でメジャー取りましょう」って。結果的には7年かかりましたけど。

プロの過酷さと「準備」の重要性

坂田: 一般的なゴルフと、プロのトーナメントってどれぐらい違うものなんですか?

飯田: 僕らは18ホールをどうこうするかだけど、プロは72ホール、4日間の戦い。その前には練習ラウンドもある。「100ホールが毎週やってくる」んです。

坂田: 体力的にも相当ハードですね。

飯田: 松山だったらスタートが8時だったら、4時間前の朝4時から準備して、8時のスタート時間を迎える。5時間プレーして、その後練習して。一日の動いてる時間が異常に長い。

坂田: だからフィジカル面が重要と。

飯田: よく「メンタルがダメで」という選手がいますが、実はメンタルよりも体力が足りないケースが多いです。72ホール戦い抜く必要がありますから。

坂田: 興味深い分析ですね。

飯田: 僕は選手に3つの分析を求めます。「メンタリティなのか、フィジカル面なのか、テクニカル面(スイング技術)なのか」。残念ながら、多くの場合、技術不足や体力不足を「メンタルの弱さ」で片づけてしまう。

価値観を変えた出会いと健康哲学

坂田: 実は私たちが出会ったのも、ゴルフ合宿でしたよね。その時の印象はいかがでしたか?

飯田: 僕、それまで基本サプリ否定派だったんです。

坂田: それが変わったきっかけは?

飯田: 喋っていく中で、自分でも腑に落ちるというか。納得できる部分がいっぱいあったので。

坂田: 最初の印象はどうでした?私から見ると、飯田さんはかなり存在感のあるオーラがありましたけど(笑)。

飯田: あ、それ「過剰広告」です(笑)。実際は、ゴルフ場で集中したいから、「話しかけづらい雰囲気」を出していたかもしれません。

坂田: なぜ話しかけられたくないんですか?

飯田:選手のために気づいたことがあれば伝えたいので、常に集中して見ていたいからなんです。

坂田: プロ意識の現れですね。それで合宿での印象が変わったと。

飯田: 五島列島での2泊3日で、坂田さんといろいろ話す中で、自分でも腑に落ちる、納得できる部分がいっぱいあった。坂田さんのサプリに対する熱い思いが熱すぎて、こっちが溶けた(笑)。

「準備」としての健康哲学

坂田: 私が専門とする予防医学の観点から、飯田さんの「基礎が大事」という考え方についてお聞きしたいんです。

飯田: 基礎も大事なんですけど、僕はそこに「どう準備するか」が一番大事だと思ってます。

坂田: 具体的には?

飯田: 物事を成し遂げるためにどういう準備をしていくか。これだけ準備をしたから、いろんな裏付けがある準備をしたから、「絶対に勝てるからね」って言ってあげたい。

坂田: その「準備」の中で、健康や食事はどう位置づけられますか?

飯田: 坂田さんがいつも言うように、自分の体は食事が作り、それが本当に自分の基盤となる。これって気づかないうちの準備じゃないですか。勝つための準備。

坂田: なるほど。

飯田: そこに補う、それじゃ足りないものがあって、さらにより良い準備をするためにサプリメントっていうものがあるんじゃないかと。

坂田: 素晴らしい表現ですね。それをさらに発展させると?

飯田: 食事では補えないものをサプリメントで補う。自己流で補えないものを僕たちトレーナーが補う。

坂田: トレーナーもサプリメントのような存在?

飯田: そうです。僕が治してるなんておこがましい。治るきっかけを与えてるだけ。人間の治癒能力はすごいんだから。

科学的根拠に基づく変化

坂田: 実際にファスティングも体験していただきましたが、どうでしたか?

飯田: あれは驚きました。ファスティングの時にサムライフの出汁で味噌汁作ったら「これ美味しいね」ってなって。それからずっと今サムライフです。

坂田: 味覚が変わりましたか?

飯田: 塩も何も入っていない、原材料のみの出汁。それだけで十分に美味しいと感じるようになった。出汁を水分補給で取るとアミノ酸も取れるし。

坂田: 体の変化は実感されました?

飯田: ファスティングが終わってからも、出汁に味噌と豆腐だけでめちゃくちゃ美味しい。これまでどれだけ余計なものを摂ってたんだろうって。

必要な努力を必要なタイミングで、今後の展望

坂田: 飯田さんの「努力論」についてお聞きしたいんです。

飯田: 努力って裏切ると思うんですよ。でも、課題分析して、課題解決のために必要な努力を必要なタイミングでする努力は、裏切らない。

坂田: 時間の使い方も重要だと。

飯田: 唯一平等に与えられてるのって時間じゃないですか。だらだらして3時間より、1時間半でぎゅっと詰めて、しっかりやることやり込んで、残りの1時間半をゆっくりするなり練習時間に充てる。

坂田: 期限を決めることの重要性も感じます。

飯田: 「いつでもいいよ」って言われたら無理。自分の中でルールを決めていかないと、結局怠け者なので(笑)。現代社会では、様々な配慮が求められる一方で、本質的な強さや努力を見失いがちになっていると感じます。

坂田: そうですね。一生懸命やることにやりがいがある。

坂田: 今後の目標は?

飯田: 中島常幸さんとか松山からいろんな経験とか知識をもらったので、それを与えられる側になれたらいいですね。ジュニアたちに。

坂田: 具体的には?

飯田: 中途半端なプロゴルファーになってほしくない。みんな本物になろうよ。

最後に

坂田: 最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。

飯田: 「準備」って何に対して準備をするかで、それをできたら自分で考えて行動するっていうのが一番大事。考えることってすごい大事だし、本来はその考えることによって、自分がどう準備をしていけばいいのかをやっていってくれたらいい。

坂田: それができない人には?

飯田: 分からない子たちって頑張っても間違うじゃないですか。そこを僕がこう逆に言うと、「こういう考え方もあるんじゃないの?」っていうように、サプリメントみたいな役割をしてる。僕は自分がサプリメントみたいな役割だと思っています。

坂田: 今日は貴重なお話をありがとうございました。

飯田: こちらこそ。坂田さんとの出会いで、僕の「準備」の概念がさらに深まりました。ありがとうございました。

取材を終えて感じたのは、飯田氏の徹底した「準備」への拘りと、それを科学的に裏付ける坂田氏の専門性の組み合わせの価値だった。世界最高峰で勝つための「準備」——それは技術や体力だけでなく、食事、健康管理、そして心構えまでを含む総合的なものなのだ。

飯田光輝氏は現在、ヒルズゴルフトミーアカデミーでトレーナーとして活動しながら、次世代の育成に取り組んでいる。リンクパフォーマンススタジオでは、プロゴルファーに提供するのと同じ技術を一般の人にも体験してもらえる環境を整えている。

Link performance studio
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