強くて美しい「ビューティスト」と呼ばれるトップアスリートの健康管理術~ホッケー 及川栞選手 × 予防医学マイスター 坂田武士

トップアスリートの身体は、一般の人には想像もつかない過酷な状況に置かれています。しかし、その管理方法は意外なほど「感覚頼り」であることが少なくありません。

今回は、ホッケー日本代表として東京・パリ両オリンピックに出場し、現在も現役を続ける及川栞選手との対談をお届けします。35歳にして立ちくらみに悩まされていた彼女が、わずか数ヶ月で劇的な体調改善を実現した背景には、「数値化」と「科学的アプローチ」がありました。

オリンピアンですら陥る栄養管理の盲点、そして年齢を重ねても最高のパフォーマンスを発揮し続ける秘訣とは。アスリートだけでなく、ビジネスパーソンや子育て世代にも参考になる健康管理の本質に迫ります。

アスリート一家に生まれて

坂田:本日はオリンピアンの及川さんに、アスリートとしての軌跡と健康管理についてお聞きします。まず生い立ちから教えてください。

及川さん:岩手県岩手町という「ホッケーの町」で生まれました。母が元ホッケー日本代表でアジア大会銀メダリスト、父が器械体操の選手という環境で、3歳でホッケースティックを持ち、小学4年から本格的に始めました。土日は遊園地じゃなくて、両親の部活動について行くのが日常でした。

坂田:中学ではクラシックバレエとホッケーを両立されていたとか。

及川さん:バレエの稽古場が1時間以上かかる場所で、中学になって体つきが固まってくる中、バレエの先生から「どちらかを選ばないと、どちらでもトップを目指せない」と助言されました。ホッケーなら部活動で放課後にできるということもあり、ホッケーを選びました。

日本一から世界へ

及川さん:天理大学では「12回優勝経験ができる」と言われた黄金世代でしたが、4年間で一度も優勝できませんでした。「まだ日本一を取ってない」という思いで、社会人チームのソニーブラビアレディース(岐阜・愛知)へ。天理大学からソニーに行った初めての選手でした。

そこで7年間企業人としてプレーし、全日本選手権5連覇を達成。2013年に日本代表になり、初戦で世界1位のオランダと対戦しました。1対1で引き分けて浮き足立ったんですが、次は1対6で完敗。でもオランダは難しいことをしていない。パスを出す、止める、つなぐ、走る。シンプルなのに美しいホッケーに魅了されました。

坂田:それがオランダ挑戦のきっかけですか?

及川さん:はい。2016年から2019年まで、オランダのクラブチームでプレーしました。最初はソニーに籍を置きながら休職と復職を繰り返していましたが、2017年末にチームのフィジオ(身体的なケアを行う理学療法士のこと)から「体の中がボロボロだ」と言われたんです。東京オリンピックを前に怪我をしたら夢が潰えると思い、2018年に日本人初のプロホッケー選手になる決断をしました。

2つのオリンピック

及川さん:2020年東京オリンピックは1年延期になりましたが、「この夢は自分だけのものじゃない、支えてくれる人たちの夢でもある」と思い、モチベーションを保ちました。ただ無観客だったことが心残りで。

両親は私が海外挑戦する時も、プロになる時も、一度も「ノー」と言わなかった。「やりたいことを突き進みなさい」と。その両親に最高の舞台を見せられなかったので、35歳でパリオリンピックも目指しました。去年の夏、やっと両親をオリンピックに連れて行けました。

坂田:パリではさくらジャパンが12年ぶりの勝利を挙げましたね。

及川さん:はい。でもパリ後に主力選手が何人も引退して、世界との差を肌で感じた経験を次世代に伝える責任を感じています。来年9月の名古屋アジア大会がロス五輪への第一歩なので、まずはそこに標準を合わせています。

運命の出会い

坂田:私たちが出会ったのは2024年12月のアスリート交流会でしたね。

及川さん:VFOODS主催のアスリート交流会で、坂田さんが50歳と聞いて「本当ですか?」と驚きました。どういうことをされているのか興味を持って、私から積極的にお話を聞きました。

坂田:尿検査をしてみたら62点。「よくここまでアスリートとしてできたね」という状態でした。

及川さん:私は直感と感覚で生きてきて、カロリー計算もしたことがなかったんです。「タンパク質がいくら必要?」と聞かれても「え?」という感じで。大学1年で突発的に海鮮アレルギーになって、魚の油から取れる栄養素が不足していました。社会人時代には貧血で「鉄分が足りなさすぎる」と言われたこともありました。

劇的な体の変化

坂田:造血能力が弱かったので、葉酸とマルチビタミンを追加しました。うちの合格ラインは80点ですが、最初から合格する人は3%程度。ほとんどが這い上がっていきます。

及川さん:立ちくらみが本当になくなりました。去年の夏、パリ五輪前の合宿では急に立つと立ちくらみがあって「このまま倒れるんじゃないか」と怖かったんです。でも今年の夏は炎天下の練習でも全く感じません。

坂田:造血能力が高まって、酸素や栄養の運搬がうまくできるようになったんですね。

及川さん:習慣化もできています。朝7時半に食事してビタミンを飲む。尿の色でも体調が分かるようになりました。濃い黄色が続く時は「疲れてるな」と。

食への意識革命

坂田:食事で避けているものはありますか?

及川さん:小麦に油を吸わせて揚げるカツ、天ぷら、コロッケ。酸化した油を体に入れる意味がないですから。

坂田:私も家族で焼肉に行っても、カルビは頼まず赤身と海鮮と焼き野菜。子供たちも3歳からサプリを飲ませています。特にオメガ3は脳の発達に必須です。

成功の本質

坂田:及川さんのコミュニケーション力は目を見張るものがありますね。

及川さん:自分のやりたいことを先に言うようにしています。ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」ですね。できないことは素直に「教えてください」と言います。経験を積むほどプライドが邪魔になりがちですが、私はそのプライドはいらない。

日本代表でも若い選手から学ぶことがあります。「その技術どうやったの?」「相手のどこ見てた?」って聞きます。パリ五輪に向けての代表チームでは、外国人監督の通訳も務めていました。「キャプテンという役割を与えなくても、客観的にサポートしてくれる」と言われましたが、それが自分の役割だと理解していました。

未来への挑戦

坂田:今後のビジョンを教えてください。

及川さん:ホッケーが上手くてもメンタルが整ってない選手が多いんです。若い選手からホッケー以外の相談を受けることも多い。技術だけでなく、メンタル面も含めたコーチングの場を作りたいです。

日本のホッケーは6大会連続でオリンピックに出場していますが、「そんなに出てたの?」という反応が寂しい。マイナー競技から脱却するには、選手自身が楽しんで発信することが大切。1回見たら絶対楽しいと思える競技だという自信があります。

坂田:オランダと日本、どちらが住みやすいですか?

及川さん:食は日本が一番ですが、ホッケー選手として幸せなのはオランダ。クラブに8面のホッケー場、ジム、プール、カフェテリアが全て揃っている。日本だけ知っていたら満足でしたが、オランダを見てしまうと物足りなく感じます。

坂田:「人生に迷った時は目標を明確にして挑戦してほしい」という言葉が印象的でした。

及川さん:モチベーションが下がった時、「自分の目標ってなんだったっけ」と原点に立ち返ります。すると「やっぱりホッケー好きなんだな」と気づく。美容専門学校でも話しましたが、途中でくじけそうになった時こそ、最初に抱いた理想像に立ち返ってほしいんです。

対談を終えて

及川さんとの出会いから約5ヶ月。62点からスタートした数値は着実に改善し、「立ちくらみがなくなった」「炎天下でも大丈夫」という体感の変化につながりました。

興味深いのは、オリンピアンでさえ「カロリー計算をしたことがない」「感覚で食べている」という事実です。これは決して及川さんが特殊なのではなく、多くのアスリート、そして一般の方々にも共通する課題です。

「できないことは素直に教えてください」と言える謙虚さ、「思考は現実化する」と信じて行動する前向きさ。及川さんの成功の本質は、栄養管理だけでなく、この姿勢にもあると感じました。

私たちの身体は、適切な栄養素を与えれば必ず応えてくれます。「造血能力が弱い」という課題が分かれば、葉酸と鉄とビタミンB群で改善できる。シンプルですが、これこそが予防医学の本質です。

及川栞選手(タカラベルモント所属) 2025年9月より、スペイン最高峰リーグのチーム「Union Deportiva Taburiente」に移籍

タカラベルモント株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役会長兼社長:吉川 秀隆)
https://www.takarabelmont.com/

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